大学中退者に手向ける手引き

序文

この記事は退学 Advent Calendar 2017 - Adventarの2日目の記事です。
「大学中退した人々はどうなるのか」「中退した私はどうすればいいのか」まとまった情報が見つからなかったので投稿しデータを共有します。損を回避する判断の一助になれば幸いですが、一人で考えて自己責任で判断するしかありません。


中退後の選択肢

起業家のようなすごい人でなくても、中退の悪影響を比較的受けない人たちもいます。ただし、そうしてリスクを回避できるパターンは、じつは次の3通りしかありません。

(1)大学・専門学校などに再入学する
新しい大学や専門学校に再入学すれば、2~3年は卒業年次がずれるものの、その後のキャリアにはそれほど支障はありません。ただし、再入学となれば、再受験のための予備校代・受験料・入学金・2~4年間の授業料など少なく見積もっても300万円は必要になります。そのため、経済的に余裕のある家庭でなければこの手段は現実的ではないのが難点です。

(2)身内の縁で就職する
「コネ」でも何でも、就職してしまえば学歴はそんなに大きな問題ではなくなるかもしれません。あれば積極的に活用してしまいましょう。ただし、親戚か近い間柄の人の会社に就職しようにも、そうした人が周囲にいてくれなければ不可能ですから、これもまた「特別な家庭」の人だけがとれる方法です。

(3)結婚する
結婚や出産がきっかけの場合には、中退を後悔する人はあまり多くありません。それは、中退後の生活が家庭や子育てで充実しているためだと思われます。ただし、これは、基本的に女性に限られたことですので注意が必要です。

自営業、再入学、身内のコネによる就職、結婚・出産—これ以外の「中退」は、はっきり言うと、あなたの人生を大きく悪い方向へ変えてしまう可能性があります。— 日本中退予防研究所

まだ万人に可能性があるリスクを回避できるパターンは「(1)大学・専門学校などに再入学する」のみです。これは私が思いついた選択肢一覧の2,3,5,6,7にあたります。項「7 中退後の再受験背景」で後述しますが、(1)のパターンはある程度のリスクを回避できるようです。もちろん(1)を試みて失敗すれば更に時間と金と労力を溝に捨てた高齢の高卒無職にしかなりません。

0. フリーターになる
1. 高卒で中途採用を目指す
2. 元の大学に再入学する
3. 専門学校に入学する
4. 職業訓練学校に入学する
5. 通信大学に入学する
6. 大学編入する
7. 大学再受験を目指す
8. 公務員試験を受ける
9. (業務独占)資格取得を目指す
10. 起業・自営業を目指す
11. フリーランス個人事業主になる
など

他で触れない選択肢についてはここで概観しておきます。0は簡単になれますが未来は暗いです。4は若者でなくても気軽に入れる高等教育ではない専門学校みたいな学校です。5は理系の通信大学は秋田大学の通信教育講座か放送大学の学位授与機構との連携かのほぼ二択です。7は夜間大学では電気通信大学の情報理工学域(夜間主課程)などがありますが自宅から通える立地にある場合に限られます。医学部受験では高齢でも可能ですが高学力と経済資本も必要です。8は普通に高卒として年齢制限があるものの受験できます。9は業務独占資格なら弁護士や税理士など専門職のための資格であり高学力が必要です。10は消極的中退しかできないような凡人未満には厳しく元手の経済資本も必要です。11は自称したり市役所に開業届を提出するだけですが、クラウドソーシングやアフィリエイトでバイト以上に稼ぐことは実際には狭き門です。

2018 8/8 0:30 追記
通信大学の理系学科について報告します。秋田大学理工学部・通信教育講座ではよくあるお問い合わせに明記されているとおり、大学卒業資格を得られず学士号を取得できないようです。学際分野である「情報学」科ならば設置している私立大学が複数あるようです。しかし理系学問を修めるには放送大学教養学部で理系単位を選択して取得し、学位授与機構で審査を受けて理系単位に相応する学士号を認めてもらうしかなさそうです。理系の学問を専攻できる国内の通信大学は私が調べた限りでは発見できませんでした。

個人的理由から1と7については一定量のデータを収集しまとめました。
また1については中途採用先をプログラマに限定した場合についてもまとめました。


1.1 中退後の就職状況

※高卒の中途採用枠で就職活動することになります。大学中退者の就職活動の方法については書けません。いつか筆者の個人就活談なら書けるようになるかもしれませんが。大学中退就職ガイドのような弱者搾取アフィリエイトのカモになるなとだけ言っておきます。当てにならないかもしれませんが、サポステとかで聞いてみてください。レールから外れた弱者なので自分で考えて自衛してください。

まず前提として、日本全体では

就職率 中卒0.4% 高卒17.5% 大卒69.8% — 平成27年版 子ども・若者白書(概要版)> 第4章 社会的自立

正規雇用の」就職率と解釈すれば妥当な数値です。

2018 3/19 12:00 追記

表2-4: 高卒者 求人倍率の推移

昭和63年度卒 平成元年度卒 平成2年度卒 平成3年度卒 平成4年度卒 平成5年度卒 平成6年度卒 平成7年度卒 平成8年度卒 平成9年度卒 平成10年度卒 平成11年度卒 平成12年度卒 平成13年度卒 平成14年度卒 平成15年度卒 平成16年度卒 平成17年度卒 平成18年度卒 平成19年度卒 平成20年度卒 平成21年度卒
2.05 2.57 3.09 3.34 3.09 2.46 1.93 1.73 1.77 1.88 1.52 1.30 1.31 1.26 1.21 1.26 1.43 1.61 1.79 1.87 1.81 1.29

— 『中退白書2010』、p76

大学全入時代における高卒就職市場の縮小がよく分かります。上記はおそらく高卒前に就職先を決めて高卒して即就職した人がほとんどだと想像します。
現代の大学進学率は50%程度ですが、専門学校や高専専門課程に進学する人もいるので、現代の高卒就職率は30%程度だと想像します。

2018 8/15 19:15 追記
Twitterに正確な情報が流れてきたので追記します。平成29年度学校基本調査(pdf)のp6 図「③過年度卒業者を含めた進学率(就学率)の推移(図5)」によれば、平成29年3月時点で高等教育機関進学率(過年度を含む)は80.8%です。現在の大学進学率は52.6%ですが、4年制大学だけでなく短大と専門学校まで含めると8割であり、多浪を考慮した最終学歴が高卒以下の者は同年齢層で2割しかいません。
※存命の全年齢と未来の成人年齢の大卒率についての記述は私個人の憶測であり根拠がないので削除しました

(3)中途採用 求人倍率0.46倍
厚生労働省の発表(平成21年5月)によると、平成21年4月の有効求人倍率は0.46倍だった。また、有効求人倍率のうち正社員有効求人倍率は0.27倍で、前年同月を0.27ポイント下回りました。(厚生労働省「一般職業紹介状況(平成21年4月分)について」より)

中退後の就職状況を調べると、大学新卒の90%以上が「正社員」で就職しているのに対して、中退者が「正社員」になったのは約15%だけで、逆に約60%が「パート・アルバイト」や「派遣・契約社員」、約17%は「無職」であることが分かっています。— 日本中退予防研究所

※これから提示する引用元2つの根拠は第3回ワークスタイル調査のデータ(pdf)です

大学(高等教育)の進路・就労状況の調査がされている。中途退学離学をした後、正規雇用で働くのは7.5%に過ぎず、パートアルバイト・派遣といった非正規雇用が70.9%、失業・無業状態になる者は15.0%である
労働政策研究・研修機構 2012,「大都市の若者の就業行動と意識の展開 -「第 3 回 若者のワークスタイル調査」から- 」、高等教育退学者の男女計の平均値)。— 大学における退学・ひきこもり・不登校 井出草平 / 社会学

大学中退者の7.5%しか初職で正社員になれません。

厚生労働省の外郭団体「労働政策研究・研修機構」が11年に東京都内在住の20代約2000人を対象にした「第3回ワークスタイル調査」では、
大学中退者(専門学校含む)の就職状況は「一貫して非正規雇用」が約5割で最多。「無職」も14%あった。「正社員に定着」はわずか1.7%にとどまった。— 文科省が大学中退実態を本格調査 非正規雇用増加の要因にも 無視できない社会的損失[教育] 万年野党事務局

しかも初職で正社員になれた7.5%のうち、正社員として定着できたのは約1/5の1.7%だけです。
初職で非正規雇用になった70.9%のうち、約5割は非正規雇用で定着し正社員に上がれていないようです。残りの20%は正社員に階級上昇したのか、無職かNEET(求職活動していない者)に転落したのか、自殺または失踪(遺書が発見されない自殺者は失踪扱い)したのか不明です。
2017 12/7 15:30 追記 その他・不明である自殺・失踪の他は移行先の割合がほぼ判明しました。

大学中退をした者がその後どのようなキャリアパターンを描くかについて詳細な研究はまだ存在しないが、85パーセントが非正規・無業からキャリアをスタートするため、大学卒業者に比べてその後の職業生活が困難になるのは想像に難くない

大学中退者の85%が非正規雇用者と無職者「プレカリアート」階級になります。このデータでは非正規雇用内の「契約社員派遣社員」と「フリーター」の区別がつかないため配分は不明です。

この数字は、卒業者の就職率・正規雇用率よりもかなり低い。高卒者の正社員比率は61.5%、大学・大学院卒は76.2%である。
大学退学者が大学卒者に及ばないのは容易に想像がつくが、高卒者のそれにも大きく劣っている。
これは学校を離れる前に満足な就職活動ができない、もしくは、できる状態ではなかったことが大きいだろう。
大学進学をせずに高卒で就職をした方が生活は安定する。
大学進学という投資をしたにもかかわらず、高卒の就労状況の方が良いというのは皮肉である。

2017 12/7 15:30 追記
「大学等中退者の就労と意識に関する研究」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構、2015)、p13
図表序-5 学歴別現職業キャリアの分布 男性・高等教育中退

正社員定着 正社員転職 正社員から非典型 正社員一時他形態 非典型一貫 他形態から正社員 自営・家業 現在無業 その他・不明 合計
1.4% 1.4% 2.7% 1.4% 36.5% 33.8% 6.8% 12.2% 4.1% 100.0%

2018 3/6 12:00 追記

(2)初職から一貫して非正規雇用
下図(図1-5)労働政策研究・研修機構による「第二回若者ワークスタイル調査(2006)」「キャリア類型分布(生・学歴別)」より、「高等教育機関中退」を最終学歴とする者
男性 正社員定着9.8% 正社員転職1.6% 正社員一時他形態4.9% 非正規一貫45.9% 他形態から正社員27.9% 自営業・家業1.6% 現在無職8.2% 正社員転職1.6% 合計100%
(3)ニート状態の若者のうち 31.7%が中退経験者
社会経済生産本部の調査により、「ニート」の状態にある若者の学歴別をみると、ニート(調査対象者)の31.7%が教育機関からの中退者であることが分かりました。その内訳は、高校中退12%、専修学校・各種専門学校中退が7.7%、大学中退が12%です
(6)初職「非正規」の半数 「5年後も非正規」
下図(図2-11)は、初職継続者の割合を、初職就業時期別・雇用形態別に示したものです。初期就業継続者の中で4~5年前に初期就業した者で、非正規就業者は51.4%います。つまり、初職が非正規就業ならば正規就業になる確率はちょうど五分五分になるということです。しかし、労働政策研究・研修機構によると初職が非正規就業の者には「一時的な職」としてアルバイトやパートを選んでいる者が多くいます。このことから、当初の考えとは異なるものの、結果としては長期的に非正規就業をしてしまっているという現実が伺えます。
— 『中退白書2010』2. 中退のリスク


※以下の引用三ヶ所の出典元を紛失しました。すみません。

高等教育中退者(卒業無)が正規雇用率 9.4%であるのに対し,中等教育卒業者の正規雇用率は53.7%であるため,高校を卒業して高等教育に進んだ後に中退して働くよりも,高校を卒業した後にそのまま就職したほうが、正規雇用率が高いということになる

大学中退者は大学在籍期間は無職期間と同等して扱われるようです。ただの年寄り高卒です。

「中退経験が個人のキャリアに長期に渡って負の影響を及ぼしている」可能性が高く,初職で非正規だった場合,その後も非正規雇用が継続する者が一定以上存在する

高等教育中退者(卒業無)は,「サービス職」がもっとも多く 32.7%であることが示された。そして,高等教育を卒業者は,中退経験の有無による違いは見られず,「専門職・技術職」がもっとも多かった。

大学中退者の最多35%が「サービス業」、すなわち飲食や販売などで対人業務に就きます。要するにコンビニ店員のフリーターなどです。


1.2 情報系学科中退者はプログラマになれるか

注:私は情報系学科に在籍していましたが、プログラマのアルバイトを経験したことがない(そもそも東京以外には求人がない)しプログラマとして就職したこともないので情報系業界についての見識が乏しく、この項での私的解釈の信憑性は怪しいです。

IT人材白書(バックナンバー):IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 IT人材白書2016 (調査年:2015年度)「図表4-4-3 IT企業IT技術者の最終学歴【年代別】」

20代: 高卒2.5%・専門卒14.5%・高専卒0.5%・大卒62.0%・院卒18.5%
30代: 高卒4.0%・専門卒16.9%・高専卒3.4%・大卒56.5%・院卒15.3%

「図表4-5-3 ユーザー企業IT技術者の最終学歴【年代別】」によると、

20代: 高卒8.7%・専門卒8.7%・高専4.1%・大卒59.7%・院卒16.3%
30代: 高卒7.1%・専門卒13.7%・高専3.8%・大卒61.5%・院卒12.1%

「IT企業」の方が「ユーザー企業」より学歴が高いことから推測するに、【SE】IT業界総合ランキングvol.51【SIer】 >>2のように「自社内の情報システム構築・運用を主目的に作られた会社」を「ユーザー企業」、「IT企業」はSIer上流を指していると私的には想像しています。
「IT企業」「ユーザー企業」の集計範囲は不明です。集計されない範囲(登録派遣で独立系SIerなど)で、中卒プログラママ男のようにIT土方をやっている可能性を私では捨てきれません。最終項で後述していますが、大学か高専を中退してプログラマとして働いている高卒をTwitterでそれなりに観測するからです。よって高卒プログラマは集計されていない職場に多くいるのではと疑っています。
IT人材白書に非正規雇用率の調査欄が存在しないのは、単に公表する気がないからなのか、そもそも調査対象を正社員に絞っているからなのかは不明です。

高専卒の割合が低く見えるのは学生数が少ないからです(高専は57校中51校が国立であり偏差値が高い入学受験を通過しており専門卒より高等な専門性を持っています)

プログラマの非正規雇用率を示す「データ」は調べられていません。募集中です。
2017 12/26 18:50 追記 (プログラマの)非正規雇用の待遇についてはなぜ人は派遣で働いてはいけないのかが詳しいです。

※大学中退者は高卒なので専門性を持ちません。「情報系学科中退」はプログラマというプロ職業の基礎教養を修了する能力がなかったと判断されるので情報系専攻を名乗れません。よってプログラマを目指すのを諦めるのも選択肢のうちの一つです。プログラマを目指した経験を無駄にして他に何か残る能力がある人がどれだけ居るのかは分かりませんが、覚悟があるなら志望就職先をプログラマに限定する必要はありません。もちろんプログラミングが得意か好きならプログラマを今後も目指しましょう。プログラマを志望し続けるのは他の選択肢よりは経験がある分だけマシでしょう。しかしプログラミングが苦手か好きでないなら辞める良い機会です。別に趣味プログラマに留まって構いません。では次に何者になることを目指せばいいのか?各位やっていきましょう。

2017 12/27 1:30 追記
プログラマとして就職に成功した大学中退者は、私がTwitterで観測した範囲では
・希少価値の高い最上位1%の学生なので中退すら問題にされなかった場合(最終項で後述)
難関大学在学生のみに出回っている求人に応募したり、ITイベントで構築したコネで採用されたりして、空き時間や休学中にアルバイトのプログラマとして職場にすでに定着しており、職場に相談して保険となる内定を貰えたので中退し、直後に同じ職場で社員として採用された場合
・中退する前に十分に就職活動をする余裕があり、保険となる内定を貰えたので中退し、直後に採用された場合
のどれかに分類できます。それ以外の大学中退者は順当に派遣社員になっていました。
最終項でも後述しますが、そもそも一定水準以上の技術力がない人はTwitter情報界隈では無視されるので観測範囲外です。技術力が高い人ほど1番目か2番目の場合に含まれている割合が多くなり正社員率が高いとは言えますが、技術力が高くても上記の3通りに含まれていないと派遣社員になっているように見えました。大学中退者のプログラマ就活についてはプログラマと学歴学歴別!中小企業のIT技術者就活ガイド人売りIT企業とアウトサイダー達の物語を参照してください。


7 中退後の再受験背景

文部科学省が2014年9月25日に発表した報道資料「学生の中途退学や休学等の状況について」によると、国・公・私立大学、公・私立短期大学高等専門学校の1,191校(回答校1,163校・回答率約97.6%)の全学生数299万1,573人のうち、7万9,311人が中途退学をしている。その一方で、退学者の15.4%が転学しているとのこと。— 「大学中退の理由はミスマッチです」 - 大学中退者が選んだ未来とは? -

「退学後に転学している」15.4%は、おそらく大学編入試験に合格し、元の大学から編入先の大学へ移るときに、元の大学は退学扱いになるので、それに該当すると私的には想像します。上位国立大学では高専生に限定していますが、他の大学では大学編入試験には大学生・短大生・専門学校生にも受験資格があります。しかし、おそらく高専生による国公立大学への編入がほとんどと思われます。また、前で示した大学中退者が退学した大学で半分以上の単位を取得しており、「6. 大学編入する」を採って成功した場合はこの範疇に含まれます。



大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験(pdf)
p12 Ⅳ-2.退学後のキャリアを説明する入学前の要因1 先行モデルとの対応

まず,Tinto(1975)がモデル内で示した変数と,本調査で聞いた項目との対応関係を記す。先行研究で示された変数は,3つあった。家庭環境と個人属性と大学入学前の経験である。
第1の家庭環境は,両親の最終学歴を用いた。
第2の個人属性は,例として性別・能力が挙げられており,本調査では,性別と中学3年生時の成績,在籍した高校の進学率を能力の代理変数として用いた。
第3の大学入学前の経験とは,Tinto(1975)によると,学業達成と社会性の獲得である。本調査では、社会性の獲得として,高校時代の経験で現在役立っている経験を尋ねた。

p13 2 中退後の卒業を説明する入学前の変数

結果からは,父親の学歴が大卒,男性である,中学 3 年生時の成績が高い場合は,退学後の卒業に有意な正の影響力をもち,高校時代のアルバイト経験がある場合は,退学後の卒業に有意な負の影響力をもつことが示された。

中学3年生時の成績が高い大学中退者は再受験して大卒する人が多いようです。
父親が大卒であることが正、高校時代にアルバイト経験があることが負の影響力を持っていることは、家庭の社会階級について示唆しています。前者は比較的裕福、後者は比較的貧乏であることが予想されます。学歴資本という文化資本の一部形態への親和性や、再受験するために必要な家庭内経済資本の有無が再受験を選択できるか左右していると解釈できます。


大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験(pdf)
p7 Ⅱ-1.大学中退後のキャリア

国内研究において大学中退後のキャリアを確認したものは,ほとんど存在していないものの,これら「退学者調査」と「JILPT 調査」の結果からは,中退理由には「経済的な理由」と,「学校不適応」といった要因が見られること,中退者には,中途退学後に再入学をして卒業した「転学」と,そのまま大学を離れた「離学」が存在していることが確認された。
そして,「転学」は,高等教育を中退した者のうち,7 人に 1 人の割合で存在し,無視できない人数に上ることが示されている。
また,就職場面においては,新卒採用の仕組みにのれなかった大学中退者が働く場合,初職での正規就労は難しいことが明らかになっている。(退学者の正規就労率は7.5%)
そして,中退理由や転学・離学の別は,同じ中退という事象であってもその後のキャリアの違いが予測される

p11 Ⅳ-1 高等教育機関中退者の現状

学校間移動者の内訳を確認してみると(図表3),もっとも多いのが,「大学中退&大学卒業」パターンであり,233 名中,約42%の 97 名にあたる。
さらに,大学中退者のうち,大学の卒業年と初職入職年が一致している者は69.2%であることが示された(図表4)。
これは,大学中退者の約7割が,後に大学を卒業し,卒業と同時に就職していると考えられる。
次に多いのが「大学中退&専門学校卒業」であった。こちらも内訳をみてみたところ,25 名中,専門学校を卒業してから初職入職までの期間が0年の者が20 名であるため,多くは,卒業後すぐに就職しているものと考えられる。
これらのデータから読みとれるのは,高等教育機関の「退学経験あり&卒業経験あり」のパターンの者は,高等教育機関を退学した後の転学により,卒業後すぐに就職しているということである。
つまり,JIL(2012)で指摘されたところの「新卒採用の仕組みにのっている者」が,「大学退学経験あり&卒業経験あり」のうち,約 7 割であり,高等教育全体でも約6割強が該当することが示された。

「大学中退&大学卒業」、つまり「2. 元の大学に再入学する」、「7. 大学再受験を目指す」のいずれか(区別はつきません。「6. 大学編入する」も含むかもしれません)採った者は初職を得られていることがわかりました。数値は中退経験がない新卒就職率と似ている69.2%ですが、正社員就職であるかは分かりません。
「3. 専門学校に入学する」の場合も20/25=0.8、8割は初職を得られていることがわかりました。

p14 V. 考察

近年,退学者数は増加傾向にあるものの,そのうち約半数は退学後に卒業している

退学者の多くがその後転学し,卒業しているという事実は,問題の所在が,退学者数の増加にあるのではなく,学校選択や進路選択の方法にある

第2の発見は、これまでに JILPT(2012)で示されていた,「新卒一括採用の仕組みにのりさえすれば,中退問題は解消される」という「幻想」は特に若年層において,現実的な数字をもって否定されたことだ。
この背景にあるのは,新卒一括採用になじんだ日本的雇用環境であり,ある一定の年齢幅にないと同じスタートラインに立てないという企業側の事情も大きく影響しているのではないかと推察される。
一斉にスタートラインに立たせようとする日本の新卒一括採用の仕組みでは,大学退学歴がある場合に,大学を退学してまでもやりたかったことは何か,他の人よりも1年遅れた意味は何かを問われても不思議はない。

大学中退後にやり直しをしても,現在の日本の雇用慣行の中では,中退していない学生との差を埋めることは難しい。しかし,卒業しなければ,初職において,その後のスキル獲得のための職場での学習機会を得ることも困難だ。

大学中退は問題なのか 辰巳哲子

退学者は、大学や専門学校など、他の教育機関に再入学するコストを払っても、高等教育機関にとどまるべきなのだろうか。
リクルートワークス研究所が実施したワーキングパーソン調査2014では、高等教育機関を中退した後に卒業した者は退学者の半数強に上ることが明らかになっている。
そして、高等教育機関を中退した後に転学して卒業した場合、退学後に離学した者に比べると初職の正規雇用率は高くなることが示された。
しかし、注目すべきは、ストレートに大学を卒業した者との初職の雇用形態の違いである。中退経験者の場合、ストレートに大学を卒業した者と比べると、初職の正規雇用率は低い。
特に、18~39歳の層ではストレート卒業者と中退経験者との正規雇用率の差は大きく、29歳までの初職正規雇用率は、ストレート卒業者77.5%に対して、中退経験卒業者47.9%、30~39歳ではストレート卒業者81.3%に対して、中退経験卒業者の初職正規雇用率は57.9%である。
つまり、再入学にかかる金銭や時間のコストを払っても、その対価として得られる「高等教育のやり直し効果」は限定的であり、むしろ退学リスクを下げられる大学選びに注力したほうがよいという結果となっている。

「中退経験者の場合、ストレートに大学を卒業した者と比べると、初職の正規雇用率は低い」ので、一度中退してしまうと再入学しても正規雇用率はレールに乗り続けてこれた人に比べると下がってしまうようです。しかし、1.1項によると大学中退者20代の正規雇用率は7.5%ですが、この直前の記述によると20代の正規雇用率は47.9%までは回復しています。大学再入学で正規雇用率をある程度まで取り戻すことは可能なようです。

入学して初手退学して即再受験成功し「浪人・留年は+2年までを第一新卒とする」という通説(噂だけが流布しており根拠となるデータを発見したことがないので募集中)に抵触しない場合は問題なさそうですが、退学後に実質多浪で大卒した場合との区分がないため、年齢に関わらず(ここが重要)再入学し大卒できたら、初職の正規雇用率を47.9%まで回復させることが可能できるとは言えません。日本の25歳以上での大学進学率はOECD諸国中で最低水準ですから実質多浪で大学に入学する人が少ないので日本企業は多浪に厳しいはずです。同年齢で職歴がある高卒と全く職歴がない大卒の価値が入れ替わってしまう年齢は何歳からなのか分かりません。この疑問に答えてくれるデータがないので募集しています。


結び

あなたが「優秀な」プログラマ志望者なら、1.1項によると大学中退者の正規雇用率は7.5%、1.2項によると20代高卒プログラマが5%前後しかいなくても、退学しても正社員プログラマに「多分」なれるのでやっていきましょう(人生の失敗をプログラミングで取り戻した成功談は比較的インターネット上や書籍でよく見ますし、そういった人が本当に一定数いるのも確かです)。たとえ確率が酷いとしても、他にもっと良い道を選べる人は少数派なので、やっていくしかありません。
それ以外の私自身を含む中退者に対しては、選択肢のどれを選べば正解なのか匙を投げるしかないので各位やっていきましょう。


後書き

情報系界隈はTwitterに密着しています。Twitterの情報系界隈を観察していると退学者をそれなりに観測できます。退学 Advent Calendarも4年目を迎えました。
この記事を公開した動機は、「難関大学や大学院を中退してすぐにプログラマとして就職できて良かった話」みたいな生存バイアス記事を読み飽きたからです。
https://adventar.org/calendars/archiveに大学のサークルや学部のカテゴリ名でカレンダーを作成しているのは、MARCH以上または工科大学の情報系の活動が盛んな特定の大学の出身者がほとんどです(数えました)。Twitterでも同様です。大学生のうちMARCH以上の偏差値は学生数比の上位1割です。メリトクラシーにおけるスクリーニングとシグナリングによって日本労働市場は選抜するとした見方では中退しても支障がないかもしれない最上位1%である投稿者による記事も散見されます。
退学した事実を半匿名のTwitterで公言する行為はアカウントを公言後も継続的に運用するには不利益になりそうに思えますが、Twitterヘビーユーザーの優秀なプログラマは事実を隠すことで齟齬が生じTwitter活動に支障をきたすことを嫌うのか、退学をネタとして消化できてしまうことが多いようです。高学力(と長く在籍している場合は大学の教育能力またはITサークル活動経験、または所属集団の文化資本が高いことによる中高時代からのプログラミング独学経験)に裏打ちされた技術力がある彼らはscreen nameありで退学エントリを書き可視化されているので、Twitterを見ていると情報系にとって退学が些事であるように見えがちです。しかしブログに苦労話を書ける生き残りだけを見て、Twitterでは観測できない無数の沈黙する死者たちを見過ごしているだけかもしれません。死者たちは無知による死体蹴りの憂き目に遭ってしまうかもしれません。よって下位9割である匿名の死体をAdvent Calendarという公道に磔にして晒します。