車輪の下の大学中退者たち

序文

以下のデータは「大学中退した人々はどうなるのか」「中退した私はどうすればいいのか」に関係なく冗長なので、大学中退者に手向ける手引きから分離しました。
※大学中退した私は中退防止策を書けません。中退理由は各位で様々なので、それぞれ自力で解決するしかありません。中退には原因があり、起こるべくして起こります。


中退理由

経済的理由が実態よりも多くカウントされる傾向にあるのは、中退者にとって経済的理由が申告しやすく、教職員も了承しやすいため、暗黙の了解として処理されているのが一因ではないか、と私たちは分析している。教職員に面と向かって「大学がつまらなかったから」「友達ができなかったから」とは言いづらい。
学部・学科構成等で違いはあるが、経済的理由、病気、妊娠・結婚による中退は全体の2割程度 — 経済的理由中退は1割 - 日本私立大学協会

大学生はどのような理由で,中退に至るのか。
前述の退学者調査(文部科学省,2014)によって明らかにされた。高等教育における中途退学者は,2.65%,7 万 9311 名であり,彼ら彼女らの退学理由 3のうち,もっとも多いのは経済的理由であり,20.4%に上る。
次に多いのが,「学業不振」「学校生活不適応」といった,高等学校から大学への円滑な移行ができていないことをうかがわせる理由であり,あわせて18.9%に上る。
その他の退学理由のうち,中退後のキャリアを予測する項目は,転学,就職と海外留学であり,それぞれ15.4%と 13.4%,0.7%であった。— 大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験 辰巳哲子(pdf)、p7 Ⅱ-1.大学中退後のキャリア

大学中退に至る過程について,Lehmann(2007)は,退学する大学生は1年生の早期のうちに,成績の良し悪しにかかわらず異文化へ適応できず,友人ともなじめないことを理由に辞めてしまうとしている

※大学在籍時の成績は、1年生の早期の適応度によって決まり、入学試験の成績は関係がないことは、中退率が高いことで有名な大学成績1年で決まる? 卒業時と一致 東京理科大調査でも示されています。大学入試と入学後の成績の関係も参照。

Tinto (1975)の指摘によると,学生は「家庭環境」「個人特性」「大学入学前の経験」をそれぞれ保持して入学してきており,これらの諸特性を持った学生は,教育機関のアカデミック・システム(知的環境)や社会的システム(交際範囲)の中にそれぞれ統合され,大学の二つのシステムに統合される度合いが強いほど、大学へのコミットメントは強く,卒業確率が上がる(Tinto,1975)。
つまり,これらのシステムに統合される度合いが弱いほど,大学へのコミットメントは小さくなるため,退学や留年する確率は高くなるとしている。— 大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験 辰巳哲子(pdf)、p8 Ⅱ-2 高校から大学への移行


教育機関のアカデミック・システム(知的環境)は文化資本、社会的システム(交際範囲)は社会関係資本、と読み替えることもできます。
平易に言えば、家庭の社会階級が高く文化的生活を送っておりコミュニケーション能力が高い高校時代からのリア充ほど大学に適応し、家庭の社会階級が低く教養が乏しく人付き合いが苦手な高校時代からのオタクほど中退するということでしょうか。

人間関係を理由にした中退には、教員や友人・先輩との間で何らかのトラブルが生じて中退するパターンと、周囲と人間関係を築けず孤立して中退するパターンの2通りがありますが、多くの場合が後者の「孤立」によるものでした。— 日本中退予防研究所

学歴劣等感を拗らせて逆にさらに低い高卒階級に転落してしまうことがあります。私的には学歴劣等感とは相対的剥奪感ではと想像しています。未だに学歴劣等感(コンプレックス)自体についての真面目な分析を発見したことがないので募集中です。気分上の対症療法としては学歴コンプレックスに悩む人のスレPart5のテンプレが今まで見た中で一番まとまっていました。相対的剥奪と定義すると社会学の範疇ですが、まとめが未完成なので記述しません。→書きました


中退率

日本中退予防研究所は中退予防に取り組むNPOですが「中退者が続出することによる悪評が大学運営に損害を与えることを防止するために中退者を減らす方法論を大学運営陣にコンサルティングする(意訳)」組織なので中退当事者からの信用は限定的です。中退当事者も読める書籍『中退白書2010』と大学運営陣向けの書籍『中退予防戦略』を出版しています。「こういう人が中退してしまいますよ~(中退した後は知りません)」形式で中退に間接的・部分的に言及する書籍は数あれど、「実際のところ大学を中途退学した人々の多くはどうなるのか」「大学中退した後どうすればいいのか」を記述している書籍は私が知る限りではこの二冊しかありません。
『中退白書2010』は当記事と形式が似ており補完し合う内容のため有用に読めたので引用していきます。初項「はじめに」の松本美奈読売新聞社『大学の実力』担当記者)によるコラムは新鮮でした。消極的中退者は大学入学理由が他律であることが多く、例えば「日本社会では新卒就職しなければ正社員になれないから」も含まれます。まさしく中退することになる大学に入学したから新卒就職が閉ざされることになるのが皮肉です。また、中退者は消極的中退の原因を大学側に求めるわけですが、「こんな大学すら自分は続けることが出来なかった」と落ち込み、鬱病で苦しむケースすらあるそうです。
『中退予防戦略』はMARCH未満の偏差値の、新卒を生産することで利潤を得るために設立された弱小私立大学の運営陣にコンサルティングする必要性を迫り利潤を得るために出版されている書籍に読めたので大学中退者の参考にはなりませんが、初項「はじめに」は大学運営陣の本音をよく表していたので要約すると

2011年4月1日に文部科学省が大学に対して義務付けた「教育情報の公開」が始まっており、入学者数、定員、在学生数、教員数、教員の業績、授業科目、年内の授業計画、卒業の認定基準、授業料などが公開すべき項目として挙げられているが、海外ではweb情報開示が当たり前な〈就職状況〉や〈中退率〉、〈奨学金取得率〉などクリティカルな情報は含まれていない。2018年になってもクリティカルな情報は依然として公開されていない。

しかし、読売新聞社『大学の実力』が2008年に日本で初めて中退率を公開してから毎年公開しています。2015年にはweb検索版が公開され、今やインターネットで検索できる時代です。

大学運営を「会員制ビジネス」に置き換えて考えると中退率は「顧客の不満足度」であり、インターネットが発達したことで、不満足な元顧客は運営にとっての悪評をインターネットに流して損害を与える時代に来ている。

とされています。実際、私も中退したあとみんなの大学情報に中退した大学の「悪評」を投稿、増田にその「悪評」を補完する内容を投稿してみました。

読売新聞が実施している「大学の実力」調査では、中退率や就職率など、他の大学情報誌では知れない情報が詰まっています。また年々調査協力大学を増やし、2011年度版には623校が回答しています。大学選びや進路指導にお役立て下さい。— 『大学の実力』

危ない大学を入学前に避ける以外の用途で読んでも手遅れだと思います。後述する選択肢のうち別の大学へ移る道を選ぶなら、この書籍で志望大学を吟味し次回は避けましょう。
2018 3/6 12:00 追記
少し前に読みました。2015年にはweb検索版が公開されていたようなので、あなたも検索してみましょう。
2019 2/2 16:50 追記
web検索版の利用には「大学の実力2019」検索サイトへようこそによると「大学の実力2019」のトビラに掲載されているID・パスワードが必要になったようです。

私大生の8人に1人が中退者になっていた!?大学から生まれる“格差社会ニッポン”の恐るべき実態NPO法人NEWVERY山本繁理事長×(略)

現在、四年制大学の年間中退者は私立で約6万人、国立で約1万2000人、あわせて7万2000人、短大約7000人、そして専門学校が約3万7000人で、いわゆる高等教育機関中退者は11万人強と我々は推計しています。四年制私立大学では平均して8~9人に1人が辞めているのが現状です。高校中退が約7万2000人ですから、それ以上の学生が大学・専門学校からドロップアウトしていることがわかります。—

1/8 = 0.125であり、1/9=0.111...ですから、私立大学一般の平均中退率は約10%と主張されています。

実は文科省が調査をしておらず、正式なデータがないため、本当のところは全くわかりません。

偏差値の高低と中退率できれいに相関関係がでます。つまり、退学リスクの高い学生ほど、偏差値の低い大学に入学しているといえます。ちなみに、東大の中退率は卒業までに1%、早慶で5%前後です。

偏差値では同レベルの大学・専門学校でも、中退率をみると、年間10%のところもあれば1%のところもあるのが事実です。— 日本中退予防研究所

2017 12/6 5:30 追記
「大学等中退者の就労と意識に関する研究」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構、2015) p10
図表序-3 偏差値別退学率

偏差値 私立 国公立 合計
39 17.2 17.2
40-44 16.9 16.9
45-49 11.6 6.7 11.5
50-54 8.0 3.8 6.8
55-59 6.0 3.6 5.0
60-64 3.4 1.6 2.9
65-69 3.2 2.4 3.0
70以上 3.0 1.5 2.2
平均 11.0 2.9 9.4

2018 3/6 12:00 追記

OECD加盟国における高等教育中退率で、日本の中退率はもっとも低い10%です。(図1-2)ならば全く問題がない、というわけではありません。たとえば、アメリカにおいては約半数の学生は中退をしますので、「中退」という選択行動が一般的で社会的に認められた行為であると考えられます。一方、日本においては「中退」が社会的「少数派」でありますから、就職等の面で不利益を被る可能性が高くなります。— 『中退白書2010』、p9、 1. 中退の現状(2) OECD加盟国比較 日本の高等教育中退率が最も低い

2018 3/19 12:00 追記
『中退白書2010』ではmixiの大学中退者コミュニティにアンケート調査を呼びかけ101人から回答を得ました。
バイアスの高い調査方法ですが、大学中退者の中退した年次や休学・留年経験の有無のデータを他では見つけていないので引用しておきます。
p38 5.中退した時期

f:id:masuda114:20180319110839j:plain
休学経験 有り19% 無し81%
留年経験 有り10% 無し90%

規定単位数を揃えないと次の学年に上がれなくなる学年は大学によって違い、在籍可能期間は最大8年ですが、早期に退学して損切りできた者の方が多いようです。
大学での成績は一年の早期の適応度に強い相関があるから、一年時のゴールデンウイークまでの適応度で大学生活全体の適応度が推し量れるので、筆者としては早期に退学を決断し損切りできるに越したことはないと考えます。さすがに入学しておいて、最初の授業料支払いが発生する入学後二ヶ月以内までに退学を決断できる者は殆どいないようですけど。

中退率の推移

中退率が近年増加しているのかどうか,中途退学者を年代別で確認したところ,中等教育・高等教育共に,年代が若いほど,中途退学率は高く,18~29 歳では高等学校中退が5.9%にのぼることが明らかになった — 大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験(pdf)、p12 図表8 年代別中途退学率

最近になるほど中退率は上昇しているようです。これは教育体制が崩壊してきた可能性、賃上げに比べ大学授業料が高騰していること、大学全入時代において従来の高卒上澄み層も低偏差値私立大学に入学するようになったこと、などが原因として考えられます。

2017 12/7 15:30 追記

90 年代半ばより、日本の大学等(大学・短大・専門学校・高専の専門課程)への進学率は上昇している。量的に見ても、大学への入学者は 1990 年には 50 万人に届いていなかったが、2010 年にはほぼ 62 万人に達した。18 歳人口が減少する中で大学が増え進学率が上昇した背後には、高校教育政策の転換と高卒労働市場の狭隘化が存在している。80 年代までの日本社会においては、高卒者の卒業後の進路の4割は就職であったが、90 年代半ば以降は大学・専門学校等をはじめとした高等教育への進学が主流となり、多様な学生が大学等に進学するようになったのである。— 「大学等中退者の就労と意識に関する研究」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構、2015)、p8